(一)


秋の夕方ほど、典型的という言葉が似合うものはないと思う。

蛍光灯の白い光の不規則な点滅。替え時を逃したら消えるまでチカチカ目障りな主張をやめない。そこに集まってくる虫をぼんやりと見上げながら、スクイズボトルについた洗剤を水で洗い落としていた。


午後七時半をこえれば体育館の外はもうすっかり暗くて、気まぐれに吹く風に身体がぶるりと震えてしまう。


スクイズボトルを洗い終えたら、ゼッケンを洗濯して、雑巾と一緒に部室に干す。かかる時間はざっと一時間ほどだろうか。部活後のタスクにかかる時間を逆算して、はー、と盛大な溜息をついたら、蛍光灯に止まっていた虫の何匹かが空へ飛び立っていった。





「おーい。林、お疲れ」


虫の行方を追っていると、不意打ちに声をかけられる。間延びして生温いその声音はよく知っているものだった。

ため息をついた愛想のない顔のまま、声の元に顔を向ける。

すると予想通りの人が、体育館の扉からこちらをのぞくように顔を出していた。私がマネージャーをつとめる男子バスケ部で、とりわけ私が信頼をおいている同い年のナナだ。屋内の眩しい照明に、髪の毛先がきらきら輝いてみえる。




「お疲れ様」
「うん。林って、今、暇?」
「暇に見えてる?」
「ふは。見えない、見えない。俺も手伝う」



これはマネージャーの仕事だからいいよ、と喉まででかかっていた言葉は、結局吐きだせずに飲み込むことになってしまう。汗まみれの大きな男がバスケットボールを扉の脇に置いて、シューズを履いたまま私の元に近づいてきたからだ。

私の隣に立って、ナナはもう一度「手伝いますよ」と言った。助けていることを主張したいのか褒められたいのか分からないけれど、謝ってほしいわけではないということはなんとなく分かる。


頷いて深く息を吸い込んだら、酸っぱい汗の臭いがした。蛍光灯の白い光は体育館の照明の何十倍も弱いから、汗は光らずに臭うだけだ。