「ここは林 円花が縋るべき場所じゃない、と俺は思いたい」



「何、言って、」
「ごめん。今のは思いっきり私情を挟んでる」
「………」
「結局、ソラのこと言えないな」


苦笑いをして後ろ髪をかいたあと、すぐにモルさんは真剣な表情でもう一度口を開いた。「でも、」と、彼の声が炭酸みたいに鼓膜をゆする。


「悪いけど、本音だよ」



彼はそれだけ言って部室を出ていった。しゅわしゅわ、と耳の奥で変な耳鳴りがする。パタン、と閉じた扉をじっと見つめながら、言われたことを再び脳内で咀嚼しようとしたけれど、苦しくなって直ぐにやめた。



彼は一体私の何を知っているというのだろう。

知らないくせに、と思う気持ちと、もしも全てを知った上で言っているのだとしたらその方が恐ろしい、と思う気持ちが、絡まっている。自分がモルさんに向かって吐き出した情けない言葉たちよりも、彼に言われた言葉のほうが、この空間を濃い濃度で満たしているような気がした。


モルさんが出て行った部室では、もう何もする気になれなくて時間を置いて、部室を出る。

時間を確認するために携帯の電源をつければ、一件の新着メッセージを知らせる通知が目に入る。



〈桜子です。青に勝手に連絡先聞いちゃったの、ごめんね。円花、来週の土曜、これなさそう? やっぱり円花には、きてほしいです〉


中学校の頃の部活の仲間からだ。うんざりして泣きたくなるようなことが重なってゆく。みんな、私も、モルさんも、ナナも、この世界の人みんな、自分勝手だ。気持ちを押しつけて、満足する。全て、受け取ってもらえると信じている。


「本当に、吐きそうだ」


夜の闇に弱々しく呟いたところで、中途半端な温度では白く染まることもない。吐きたいのは、弱音か、未練か、不満か、それら全部か。


果てがない、ということに私は今日も拘束されている。