(二)




『先輩は、ゼロ度の天才ですね』




バックボードに対しての角度がちょうどなくなるところ。その位置からのシュートが、幼い頃からずっと得意だった。バックボードにかすることなく、そのままリングに吸い寄せられていく様を、伸ばした指先越しに見ているとたまらない気持ちになる。

練習中でも試合中でも、ゼロ度から放ったシュートが成功すると、きまって思い出すことがある。中学三年生の初夏に体育館の片隅で、そのとき一緒にシュート練習をしていた後輩に言われた言葉だ。

屈託なく笑いながら放たれた真っ直ぐな言葉に、胸がいっぱいになって、なぜかすました顔をしてしまった記憶が今でも鮮明にある。私がゼロ度の天才なら、あなたはバスケットボールという競技そのものの天才だ。あのときそう思ったけれど、先輩としてのプライドとか意地とかそういうつまらないものを大切にしているくらいにはまだまだ幼稚で、そんなことは照れくさくて言えやしなかった。



だけど、こんなことになるのなら、言っておけばよかったのだ。

照れていたっていい。澄ました顔をしていてもよかった。ちゃんと彼女に伝えておくべきだった。それで、何かが変わるわけではなかっただろうけれど、体育館で彼女の姿を見るたびに、私はあの日のことを後悔してしまう。







「まじで、浮いてるよね、あの子」


部活の休憩中、隣のコートをぼんやりと見ていたら、チームメイトの柚子がタオルで額の汗を拭いながら話しかけてきた。暑いー、と文句を垂らして、私がもっていたスクイズボトルを、ひょいっと軽やかに奪っていく。

コートから柚子に視線をうつせば、彼女は、じっとある方向を見つめて、苦笑いを浮かべていた。彼女の視線の先には、たった一人でスクイズボトルの中にドリンクを補充している女の子がいる。今まで私が見ていた光景だ。