(三)


秋の大会まであと2週間になると、土日の練習試合に加えて、平日の練習でも実践形式のメニューが多くなる。部活が終わった後まで残って自主練習をする部員も増えた。


そうやって大会に向けての士気が高まる中で、りかさんとこころさんとの関係は更に悪化していた。

部員の先輩が、練習の合間にふと口に出した言葉がおそらく原因だ。私がつくったシュート率の表をたまたま彼女たちの横で見ていた先輩が、「林ちゃんのこと、ちょっとは見習ったら?どっちが先輩かわからないじゃん」と冗談交じりに言ったのだ。

何の気なしの言葉だった。そういう顔をしていた。

だけど、どの言葉の温度や重みも、受け取る方が決めることだ。


むっとした表情を浮かべて顔を見合わせたふたりと、そんなことなんて一つも気にせずに再び表に目を落とした先輩と、その様子を少し離れたところでうかがっていた私。

まさか、先輩は、引き金を引いたのが自分だなんて思っていなかっただろう。

清々するような気持ちと、厄介なことになったと焦る気持ちの両方を抱えながら、一切気にしない素振りをしていた。だけど、その日を境に二人の私に対する態度はより悪くなり、正直なところかなりまいっていた。


誰かに向けられる眼差しすべてをシャットアウトして、ただやるべきマネージャーの仕事だけをこなす。


あの日、モルさんに言われた言葉が未だに自分の中にこびりついている。時間が経つほどに、膨らんでいく。破裂してしまえ、と思う。


目を閉じれば、靴の鳴る音、タイマーの鳴る音、汗のにおい、ボールが床を跳ねるときの振動、それらだけを感じられる。
居場所は、瞼の裏にしかない、と思うと、泣きそうになる。

それで、目を開いた先には、きまってモルさんがいる。逃げ出したい相手を追ってしまう自分の心理が自分でも分からず、ただただ彼を責めるような気持ちが溢れてしまう。



モルさん、私が悪いですか。バスケが好きで、好きで仕方がなかった自分を捨てられない。ずっと、バスケットボールという競技にとらわれたままでいる私が悪いですか。自分より愛のないひとにほんの少しの敵意を見せたのがいけなかったのかですか。だけど、やっぱり理不尽だと思います。モルさんが言っていることは、間違ってないにせよ、正しくはないと思います。林円花に戻らないのも、必死にこの場にすがっているのも、間違いですか。中途半端で、自分の気持ちも分からないことが、そんなにだめですか。



そう問えば問うほどに、モルさんの完璧なシルエットはゆがんでいく。

それなのに、未だに解けないのはどうしてなのだろう。わたしの中のモルさんは、沈黙をつらぬき、一文字の答えもくれない。



もう何度目かも分からない秘密の悲しい問いかけをやめて、モルさんから目をそらす。部活中だ。残り十秒のカウントダウンをはじめていたタイマーの元へ行く。ゼロになっても、また、何秒かを繰り返す。一向に終わらせないのは、自分なのに、どこかで全部終わらせたい、と思っている自分がいる。それを殺して、切れそうな糸にしがみついているのは、どうしてなのか、もうその答えさえ消えそうだった。