(五)




「マネージャー辞めさせてもらいます」

「え、」
「突然ですみません」



騒がしい渡り廊下で、頭を下げる。

それから、ゆっくりと見上げたら、目の前の人が驚き、戸惑う表情を作っていた。昨日の今日だ。りかさんとこころさんとのいざこざが原因だと思っているのだろう。それは、ほんの少しだけ正しくて、ほとんど間違っている。


朝一番に、顧問の先生とは話をつけた。元々、部活にもあまり来ないしやる気のある人ではなかったので、すんなりと承諾され、「まあ、これからも頑張れよ」と適当な餞別の言葉をもらって終わった。

あと報告する必要があるのは、いま目の前にいるこの人だけだと思ったので、授業と授業の間の休み時間を使って、今こうして向き合っている。


「昨日のこと?」
「きっかけはそうですけど、でも、私自身の問題です。……秋大会近いのに、本当に申し訳ないです」
「いや、それはいいけど。……ごめん」
「私は何を謝られていますか?」
「キャプテンなのに、色々と最低だった」


深い眠りから目が覚めたような表情で詫びられる。それが本当なのか、はたまた、目が覚めたようなふりなのかは分からなかった。だけど、今の私にはもう、そんなことはどうでもよかった。曖昧に首を横に振る。


「みんなに、辞める挨拶とかする?」
「いや、それはちょっと、こんな時期なので止めておきたいんですけど。キャプテンが、言ってくださると助かります」
「分かった。……林マネ、」
「はい」

「チームのために、今までありがとう」



頷く。

バスケに対しての未練を守る一心で、マネージャーという立場にいた。だから、本当は感謝される資格もない。

それでも、キャプテンに“ありがとう”と言われるのは、これが初めてで、一度は軽蔑の気持ちを向けた相手ではあったけれど、ほんの少しだけその気持ちが解けていく。

そのままに、再び彼に向かって一礼をして、背を向けた。もうきっと、これから話すこともないだろう。でも、私を苦しめた分だけ不幸になれ、とは思わないでいる。“なんとなく”、思わないでいる。




キャプテンに報告をしたその足で、ある人の元へ向かう。その人のクラスメイトらしき人に呼び出してもらい、教室の扉のところで待つ。席を立ち、近づいてきたその人に、小さく頭を下げると、嫋たおやかな微笑みをむけられた。そのまま互いに何か話すこともなく、人気ひとけのないところまでいく。まだ昨日の膝崩れの名残でうまくは歩けない。


だけど、足を引きずりながらも、私は彼と行く。


誰もいない階段のところで向き合うようにして立ち止まった。
どうしても、最後に伝えたいことがあった。