(二)






「みーちゃんと別れたってマジ?」


もるが、シューズの靴紐を結ぶ手を止めて、驚いたように目を丸くさせた。

目の下には、くっきりと隈がある。最近のもるは、少し様子がおかしい。人の変化に鈍感であると自覚している俺でも気づくのだから、よっぽどだ。


「誰に聞いた?」
「いや、察したというか、なんというか、だな」

もるが再び足下に目を落とす。
きゅっと靴紐をきつく縛り、立ち上がった。

「別れたよ、ちょっと前に」


見上げた先で、平然と答えたもるに思わず面食らってしまった。

普段、俺たちは恋の話をしないけれど、それでも、もるがみーちゃんのことがとても好きだったことは、知っていた。昔に一度、もるの携帯のロック画面が見えたことがある。その画面には、もると楽しそうに口を開けて笑うみーちゃんのツーショットが映っていた。


「なんで?」
「冷めたから」
「マジ?」
「うん。マジ」


未練なんてものを一つも感じさせないすっきりとした笑顔を向けられる。もるのロック画面は今何なのだろうか。

俺は、彼ほどに感情の読めない男を知らない。様子がおかしいことは分かるのに、それがどういった具合でおかしいのか説明することはうまくできないのだ。もるは嬉しいのか悲しいのかよく分からない表情ばかりを持ち合わせている人だ。





もう、すっかりと過去になった秋のあの日。

体育館の壁にボールが打ち付けられる大きな音は未だに鼓膜にこびりついている。あの時、体育館には、たくさんの怒りが充満していた。

あれから、俺たちのチームは少しずつ良い方に変わっていったように思う。

俺も、変わった。

人は、誰かの本気に触れたとき、自堕落で適当に生きている自分を恥じる生き物なのかもしれない。つまらない意地とプライドを他人にほとんど殺されて、最後は自分で捨てた。その後に残ったのは、頼りないけれど確かな爽快感だった。

俺たちの高校は、バスケがそこまで強いわけじゃない。だけど、どうせやるなら頑張ろうと思えている。これは、俺を諭してくれた副キャプテンと生意気な後輩と、そして、今はもう体育館にはいない女の子のお陰だ。

隣でもるが準備体操をはじめている。
全体で行うアップまでは、まだ時間があった。



「なあ、ソラ」
「んー?」


すっかり寒くなって、座ったままに足を伸ばしたら、少し関節が軋む。もるは、念入りに屈伸を行いながら、遠くの方をぼんやりと見ていた。