すてきな天使のいる夜に
♯記憶
ーside 沙奈ー



あれから、1週間経って私はようやく酸素が外れ、随分呼吸も楽になった。


今までのようにはいかないけど、体調は少しずつ戻ってきてるような気がする。



「沙奈。おはよう。」



「紫苑、おはよう。」


「沙奈、今日は診察の日だけど病院に来られるか?」


そういえば、週に1回は病院へ通院しなければいけないんだっけ…。


この前は、翔太が一緒に来てくれたから病院への不安や恐怖が少し和らいでいたけど、1人で行くのはさすがにまだ怖い。



だけど、今日は紫苑外来の日だし翔太も当直明けだから2人とも私の診察に付き添うのは難しいよね…。



「うん…。大丈夫だよ。」



私は、紫苑に心配させないように頑張ってそう言葉にした。



「まったく…。」



紫苑は、そんな私を見て家事をしていた手を止めて私の隣へ腰を下ろした。



「沙奈。無理はするな。


学校が終わったら沙奈のことを迎えに行くから。


一緒に病院へ行こうね。」



「だけど、紫苑。


今日は外来の日だから何時に終わるのか分からないんじゃ…。」




「沙奈は、大切な妹だからな。


それに、まだ1人で病院に行くのは怖いだろう。


無理はしなくていいから。


沙奈が少しずつ慣れてくるようになるまでは、いつでも一緒に行くから。」



そう言って、紫苑は自分の手を私の頭へ乗せた。



言葉にしなくても、紫苑や翔太は私の気持ちを汲み取ってくれる。



言葉にすること、自分の気持ちを話すことが苦手な私にとっては、とても助かるし安心できる。



「紫苑、私そろそろ学校に行くね。」



「うん。無理だけはするなよ。


もし、少しでも咳が頻回に出るようだったり息が苦しくなったりしたら吸入してね。



それでも治まらないようであればすぐに電話して。



お昼の後の薬も忘れずに飲むんだよ。」



「うん。」



「あっ。沙奈。」



紫苑は、玄関で私を呼び止めた。



「これ、忘れてるぞ。」



「ありがとう。」



紫苑は、私に小さい頃からつけているピンを私に付けてくれた。



あまり、記憶にはないけどこれはお母さんの形見でもある。



いつも欠かさずつけていたのに忘れるなんて、ぼーっとしてたのかな…。



「沙奈、気をつけて行くんだよ。」



「うん。ありがとう。


行ってきます。」




「あぁ。行ってらっしゃい。」



紫苑は、私が外へ出てからも姿が見えなくなるまでいつも見送ってくれる。
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