「……ですが、いくらアルベール様側が婚約の続行を望んでいたとしても、私の気持ちは変わらないんですよ」

 それから数分後。私はゆっくりと口を開いてそう言った。そもそも、一度植え付けられた苦手意識というものはなかなか消えないのだ。たとえ、理由をあれだけしっかりと教えていただいたとしても。それを理解するにはかなりの時間を要する。……特に、あんな現実味のない理由だったら。だったら、ここは一度持ち帰って次のお茶会の時までに答えを導き出すのが一番だろう。よし、そうしよう。

「なので、この件は一旦持ち帰って次の時に――」

 私がそこまで言ったときだった、アルベール様は私の顔にご自身の美しいお顔をぐっと近づけてこられる。そのお美しい顔に私が見惚れていると、アルベール様は「チャンス、チャンスを下さい!」なんておっしゃった。それも鼓膜が破れるかと思うぐらいの大音量で。本日三度目。二度あることは三度あるとはよく言ったものだ。

「チャンス、ですか……?」
「えぇ、シュゼット嬢に見直していただくためのチャンスです!」

 勢いよくそうおっしゃっているけれど、その表情は何処か悲しそうだ。……まだ、私に苦手と言われたことを引きずっているのだろうか? いや、別にそこまで気にしてほしくないのだけれど。罪悪感がわく。

「……いや、私よりもずっといい人を見つけるっていう選択肢はないんですか?」
「あるわけないじゃないですか! 俺がシュゼット嬢に片想いをして何年経つと思うのですか? 婚約前から見つめて見つめて見つめて、見つめ続けてきたのに……。なのに、こんなにも簡単にフラれたら死んでも死に切れません!」
「ちょっと待ってください。婚約前から見つめていたって、いったいいつからですか?」
「そんなのシュゼット嬢が社交界デビューしたその日からですよ! 貴女を一目見たとき、俺は思いました。――天使がいるって」

 待って待って、私間違いなく人間。紛れもない人間。茫然としながら、私は心の中でそんなことを叫んでしまう。……もしかしてだけれど、この人私のことを神聖化していない? 先ほども聖なる力とか浄化とかおっしゃっていたし……。これ、かなり重症の変態なんじゃあ……。