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「珍しいですね、お嬢様。一週間の内に二度も婚約者様のお屋敷に伺うなんて……」
「えぇ、私でもびっくりよ。だけど、お誘いいただいた以上無下にも出来ないからね」

 鏡台の前でエスメーに髪の毛をセットしてもらいながら、私たちはそんな会話を交わす。あの二人きりのお茶会から三日後、私はまたアルベール様の住まうクールナン侯爵邸に向かうことになっていた。今までの私とアルベール様は、大体週に一度顔を合わせるか合わせないかのレベルだった。二週間に一度の二人きりのお茶会と、他の貴族のパーティーで鉢合わせるぐらいだった。しかし、お茶会では会話なんてほとんどなかったし、パーティーでも鉢合わせればぺこりと頭を下げるだけ。……なのに、何故あんなことになってしまったのか本当に分からない。

「えっと、本日は婚約者様がお嬢様をお迎えに来てくださるのですよね?」
「そうよ。お父様とお母様、お兄様たちが本日馬車を使っていると説明したら、迎えに来るとおっしゃったから」

 今日は、本当は断るつもりだった。本当ならば、私もお父様とお母様、お兄様方と共に領地の見回りに行くつもりだったのだ。なのに、お父様とお母様は変な気をまわして「シュゼットはアルベール様と一緒に居なさい」とおっしゃった。そして、私のことを置いて行ってしまったのだ。……正直に言えば、連れて行ってほしかった。

 しかも、このカイレ子爵家は貧乏なので馬車は一台しか所有していない。お父様方が使用する以上、私には移動手段がない。そこも言い訳にして断るつもりだったのに、アルベール様はあろうことか「じゃあ迎えに行きます」とおっしゃったのだ。それはそれは、素晴らしい笑顔で。あんな笑顔、見たことがないわ。

「お嬢様。婚約者様がいらっしゃいましたよ」
「わかった。すぐに向かうわ」

 髪の毛のセットを終えてしばらくしたころ。扉越しに従者がそう声をかけてくれる。あぁ、来てしまったか。そう思うと気が重いので、私は必死に「大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせた。だって、三日かけて私はアルベール様のことを少しは理解した……つもりなのだ。穏やかに接することができる……と思いたい。自信は全くない。

 ゆっくりと階段を下りて、玄関の方に向かう。従者によれば、アルベール様を応接間にお通ししているらしい。……そうよね、馬車で待っていただきたかったけれど相手は名門侯爵家のご令息。そんな失礼なこと出来るわけがないわ。