「……あの、アルベール様?」
「何でしょうか、シュゼット嬢」
「一つだけ言わせてくださいませ。……近くありませんか!?」

 クールナン侯爵家の家紋が入った広々とした馬車の中。私とアルベール様は隣同士で座っていた。うん、それは別に構わない。でも、問題は――その距離が滅茶苦茶近いことだ。肩と肩が触れ合うぐらい、と言えば想像がつくだろうか。ちなみにだけれど、この馬車の中はとても広い。くっつかないといけないというわけではない、決して。

「これぐらい普通なんじゃないんですかね? えぇ、そうしろと教えてもらったので……」
「いや、いったいどんな教えですか」
「単純ですよ。狭いところではくっつけ、と」
「そうですね。それは恋人同士、もしくはとても仲睦まじい婚約者同士にのみ当てはまることですね」

 少なくとも、私とアルベール様では当てはまらない。もっと、距離を取ろう。そう思って私は移動するけれど、アルベール様ももれなくついてくる。あのですね、これじゃあ意味がない気がするんですけれど……?

「そもそも、アルベール様にそんな間違った教えをされたのはどこの誰ですか? それから、間違いなくその恋愛指導は間違っています」
「……完全に間違っているとは思いませんけれど、俺は。だって、実際それで俺の母は結婚したんですから」
「指導されたのはクールナン侯爵ですか、そうですか。……もう嫌だぁ……!」

 そうつぶやいて、私は膝の上で手のひらをぎゅっと握り締める。もう、意味が分からない。この間まで素っ気ない態度を取っていらっしゃったのに、いきなりべったりだなんて。しかも、常軌を逸したべったり具合。何なんですか、これ。罰ゲームですか? 私を殺す気ですか? そうなったら死因は何なんでしょうね。ドキドキしすぎたことですかね。でも、決していい意味のどきどきではありませんけれど。