おうちかいだん
三面鏡の前で私は別人になる
生徒玄関にやって来た。


靴を履き替えて外に出る為だ。


冷静になって考えてみると、今まで聞いた話は全て我が家で起こったこと。


そして、話の中に出ていた女の子は全部私だった。


リサ、ミサ、さっちゃん……どれもこれも、全て私が呼ばれていた名前だ。


もしかして、お母さんを失ったショックで記憶喪失になっていたの?


それにしてはおかしなことが多すぎる。


私に怪談を話してくれたクラスメイト達。


彼らは死んで行ったけれど、騒ぎになるどころか、今となっては本当に存在したのかどうかもわからなくなっている。


夢の中にいるようなふわふわとした感覚の中で、私は何を求めてどこに行こうとしているのか。


「あら、藤井さんじゃない」


そんな私に声を掛けたのは……米津咲(よねづさき)


高校生だというのに、真っ赤な口紅を付けて私に微笑みかける。


その出入り口を塞ぐような立ち姿は、私を通せんぼしているようにも、待ち構えていたようにも見える。


「米津さん……相変わらず派手な口だね。どうしたの、そんなところで」


私がそう尋ねると、米津さんはバッグから鏡を取り出してまじまじと見詰めた。
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