拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~
4.マダムはかく語りまして。
「ふぅーん。マルスちゃんったら、そんなこと言ったのねぇ」
しなりとしどけなくカウンターに座り、ロックグラスのなかで氷をころころと遊ばせる美女――もとい、美丈夫がひとり。
彼こそ、有力貴族にもヘビーユーザーを多数抱えるという町一番の仕立て屋、『マダム・キュリオの洋服店』の店主、キュリオだ。なお、優雅な仕草や言葉遣いでマダムやマダム・キュリオの愛称で親しまれているが、外見も中身もれっきとした男である。
今日はめずらしく風邪を引いたとかでパン屋のニースが顔を出さず、カウンターに座る常連はキュリオひとり。それで、なんとなくフィアナが相手をしていたのだが、流れでマルスの話になったのだ。
マダムは長い指を頬に添わせると、うっとりと瞼を閉じた。
「いいわぁ、青春の匂いがするわぁ。小さいころから一緒に遊んで育った、大事な幼馴染。いつしかそこには淡い恋心が芽生え、彼女に近づくほかの男の影にいても立ってもいられなくて……。いやーん、王道展開じゃなーい!」
思春期の乙女のようにきゃっきゃっとはしゃぐキュリオに、フィアナは腕を組んだ。
「マダム・キュリオ! 盛り上がるのは結構ですが、そんなことばかりを言っていると、またマルスに怒られますよ」