綱が大きく息を吐いて、終わりましたと不機嫌に言った。

「まだ怒ってる?」

 綱に背を向けたまま、砂をいじりながら尋ねる。綱に怒られるのは嬉しい。でも、やっぱり怒られ続けられるのは悲しい。

「……怒っては、ないです」
「怒ってないの? じゃあなんで不機嫌なの?」

 綱は答えない。
 波が打ち寄せる。砂浜の歓声が遠くに聞こえる。
 振り向いて綱を見れば、遠くの海を眩しそうに見ていた。

 なんだかそれが儚げで、見てはいけないようなものを見てしまった気がして、慌てて足元の砂に目を落とす。

「綱?」
「……見せたくない……去年、あなただって言ってたくせに」

 小さな小さな声だった。

 バッと首筋まで真っ赤になる。
 
 え? それって。同じなの?
 あの時、私は綱を美味しそうだって思ったのよ? みんなが欲しがると思ったの。だから誰にも見せたくなくて、自分だけの綱でいて欲しくて。

 だったら。

 嬉しくて泣きたい気持ちで綱を見る。
 綱は私の顔を見て、困ったようにそっぽをむいた。

「嘘ですよ。困らせてみたくなりました」

 困った顔をしてるのは綱の癖に。綱を困らせているのは私の癖に。

「はしたない格好を許したとなると、私が父から怒られます」

 あとちょっと。もうちょっとで気持ちがわかりそうというところで、綱はそうやって線を引く。
 そして私はその線を越えられない。綱に嫌われるのが怖いのだ。