「綱と彰仁にはいいって話だったじゃない」
「どうしてそういう理解になるんです」

 綱はムッとした顔をしてオデコを人差し指でついた。

 痛い。でも、触れられて嬉しい。ニヘラと頬が緩んでしまい、表情を隠すように悪態をつく。

「綱の意地悪」

 唇を尖らせてみせれば、綱なんて飄々としている。

「ほら、もう降りますよ」

 電車が緩やかに止まって、ワラワラと人々が立ち上がる。
 私も立ち上がれば、綱もいつもと同じようにスルリと自然に後ろに立った。

 やっぱり綱の気持ちはわからない。

 ため息をつきながら人の波に流される。

 そっと首筋に触れる声。

「もしかして誤解させたいんですか?」

 ゾクリとして首筋を抑える。綱の声の触れた場所から、どんどん熱が上がってくる。

「あ、や、……」

 振り向けない。答えられない。

「どうしました? 行きますよ?」

 横に並んだ綱の横顔を覗き見る。
 悪戯が成功したかのように薄く笑う笑顔に、恐いと思いつつ見惚れてしまう。

 私、ヤバい人、好きになっちゃたのかしら?