温もりが思い出に変わる頃【完】
もう十年以上も前の話になる。当時、私はまだランドセルを背負っていた。
何やら口論している両親をよそに、うるさいなぁ、だなんて適当にチャンネルを回していた時のことだ。
私はテレビに映った人物に一目惚れをした。画面越しのもどかしい初恋だった。

立ち去った父に苛立っている母にその人物のことを訊こうとしたけど、怒鳴られるのがオチだと考え、翌日友達に訊ねてみることにした。
友達曰く、あの人は最近着実に知名度をあげてきている役者であると教えられ、私は豪く納得してしまった。

整った容姿に迫力のある演技。あの人は役者として生きる為の才能を全て持っている。
偶然見ることになったその映画が放送されていた、ものの数十分の間にそう悟れるほど、あの人は私にとって偉大な存在になっていた。

いつしか私はその人に対し、恋心と同時に憧れの感情も抱いていた。
そうして役者になりたい一心で専門学校に入学したのは、ついこの間のことのように感じるが、実際には既に何年もの月日が経過している。
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