許す事ができるの?

···助けてくれた方


咲茉の検査は終わり異常はなく
かすり傷の手当てをしてもらっただけで
済んだ。

咲茉をかばってくれた男性の
治療を待っている間に
警察官も駆けつけてきた。
車の運転手の方も一緒に。

警察官から
事情を聞かれた。

私は、
急にドンと衝撃があって
娘と繋いでいた手が外れた····と。
咲茉は、
背中に何かがあたった····と。

車の運転手もいきなり道路に人が
現れて·····と。

男性の治療が終わった。

頭ではなく
おでこの傷からの出血だったようだが
縫わずに傷口が付くテープで留めている
らしい。
だが、頭を打っている可能性もあり
検査と全身に打撲熱がでるかもと
二、三日入院となった。

かすり傷も無数にあった。

男性の病室に行き
改めてお礼を言うと
咲茉に
「大丈夫だった?」
と、訊ねる男性に咲茉は、
「うん。ありがとうございます。
     助けてくれて。」
と、言うと
「良かった。」
と、笑ってくれた。

それから、警察官が彼に状況を訊ねると
「女の人が、この子にぶつかったのが
見えて思わず飛び出して
しまいました。」
と、言った。

運転手の人も男性に謝っていたが
男性は、
「あなたもびっくりしたでしょう。」
と、恐縮していた。

運転手さんは、それでも
前方不注意で減点となるらしい····

警察官と運転手さんが帰り
恵は、改めてお礼を伝えると
「私が、勝手にやったことです。」
と、男性に言われて
「私は、母親なのに
助ける事が出来なくて·····」
「真横では、わからないですよ。
私は、斜め後ろからみていたから。」
と、言ってくれた。

彼は·····
上杉 陽史(うえすぎ ようじ)さん
34才
高校で数学を教えていると。

上杉さんは、独身で
ご両親も近くにいないと言うことで
必要な物を売店で買い
渡してから
「明日、また来ます。」
と、言うと
「足は、かすり傷ですから
歩けますので大丈夫ですよ。」
と、遠慮する彼に
「いえ。そんなわけには
いきません。
ですが、本当にご迷惑ですか?
あっ、私は、荒垣と申します。
この子は、娘の咲茉です。」
と、伝えると
「咲茉ちゃんだね。
今夜、どこか痛くなるかも
しれないからゆっくり寝てね。
あ~っ、迷惑···とかではないです。」
と、言ってくれて
「ありがとう。おじちゃん。」
と、咲茉が言うと
「あ~っ、おじちゃんね。」
と、悲しそうに返す上杉さんに
咲茉は、
「じゃ、陽ちゃん?」
「ん?あっ、そう呼んでくれる?」
と、上杉さん
「うん。」
と、咲茉が言うと
嬉しそうな顔をした。

私達は、タクシーで
マンションに戻り
お風呂に入り
咲茉の身体を確認して
ほっとすると同時に今度は恐怖が
襲ってきて、その夜は眠れなかった。
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