許す事ができるの?

···戸川


ここ、稚内に来て二年

「おい、戸川、これ
俺が言ったのと違うだろ?」
「そちらの方が、
   見易いと思いまして」
「そうか?うん。うん。
う~ん、そうだな。」
と、言いながらニコニコしている
大熊所長。

この人のお陰で
少し人間らしくなった自分を嬉しく
思っていた。

「おい、だが、お前なぁ
俺は、お前だとわかるが
社外の人がみたら驚くぞ。」
「だって、寒いんですから
仕方ないじゃないですか。」
気持ちは、人間らしくなったが
寒さには、慣れない
本当に、寒い
夏は短く、冬が長い
そしてひたすら寒い
目だけを出している私の頭を
所長は、笑いながら撫でてくれた。

「あっ、また、所長が
朱里ちゃんにセクハラしてる」
と、事務の山ちゃんが言い放つ
「バカやろう。愛情表現だ。」
「あっ、奥さんに言いつけよう」
「はぁっ、あいつも戸川を
可愛がってるわ」
と、山ちゃんと言い合う所長。

ここに赴任してきたとき
中々、皆さんにも馴染めなかった。
皆さん優しくて、声をかけてくれるが
優しくされなれていない私は
答える事が出来なかった。
それに、優しくされる人間では
ないと、そう思っていた。

実は、ここに来て半年位経過した時
大熊所長から自宅に呼ばれた。
そこで初めて奥様にお会いした。
奥様は、小さくて、でも心の大きな
優しい方だった。

そこで、一つの封筒を渡された。
開けて見ると
運動会でゴールのテープをきる
彼女の娘さんの写真だった。
写真の裏には
❬咲茉は、とても元気にしています。
恵は、俺が命をかけて守ります。
あなたは、あなたの幸せをつかんで
下さい。❭
と、書かれていた。
あの時、あの子供を助けてくれた
上杉さん·····

所長の話では
上杉さんから水島建設の社長に
連絡が入り、戸川さんに
渡して欲しいと頼まれたとか。
社長自身中身は、何も知らないと。

だが、写真を見て
涙を流す私に
「お前も幸せになれ」
と、言ってくれた。

ここを辞めて都内に戻っても
良いと言われたが
私は、
「ここに居させて下さい。」
と所長にお願いした。

まだ、もう少し
ここで皆と居たい。
一緒に仕事したい
と、思っていたから····

でも····寒さには
なれない·····が···
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