翡翠の森


嫌いだ。
みんな、大嫌いだ。

療養の為などと言われたが、そんなの嘘に決まっている。
きっと、ここに捨てられたに違いない。
そうじゃないなら、何故こんな所に連れてきた?

敵国との境目にある、小さな町。
側にいてくれるのはやる気のない護衛と、お目付け役のデレクだけ。

みんな、兄がいればいいのだ。
聡明で、いや、何もかも自分より秀でた兄がいれば、それで足りているのだ。


(……でも、私が先に生まれていれば)


何度、そう思ったか。
それでも、どうにかなる問題ではない。

学問や武術、兵法。
お利口な返事。

そのどれを学んでも、出来のいい結果だったとしても、何も変わらない。
――諦めずして、どうればいい?


『アルバート様、絶対にお一人で出歩かないで下さいよ! ここはあの、禁断の森の近くですから』


デレクのお説教は慣れている。
それに実を言うと、この大声が嫌いじゃなかった。
本気で心配してくれる――たとえ、役目だからだとしても――そう実感できるから。

だから、出掛けた。
怒ってほしくて。
心配してほしくて。

大体、デレクは分かっていない。
“禁断”などと言われてしまえば、王子とはいえ、少年が大人しくしていられる訳がないではないか。

どこをどう歩いたのか、まるで覚えてはいない。
六つかそこらの子供の足で、よく無事だったものだ。

いい身なりの子供が、一人ぽつんと立っていたら。
幼少のアルバートとて、考えなかったのではない。


(……いいんだ、どうなったって)


考えたから、歩いているのだ。
誰か――聞きつけた父が、飛んで来てくれるのではないか。
そんな、脆い期待を抱いて。

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