ささやきはピーカンにこだまして
第4章『ときめき・ためいき・なまいき』
 翌日の昼休み。
 朝から校門で勧誘の声を張り上げたせいで、痛む喉に無理やりお米を押しこんでいると、令子ちゃんたち1年生が、わたしを教室までたずねてきて。
「先輩……ごめんなさい」
 それだけ言って6人で泣きだした。
 小松が2年の教室をまわっていて良かった、というぐらいの愁嘆場。
 女子6人に泣かれたら小松なんてなすすべもなく、つられて号泣だ。
 わたしは、朝の手ごたえのなさでもう覚悟を決めていたので、冷静にみんなにティッシュを手渡して、肩をたたいてあげた。
 大丈夫。
 わたしはみんなの涙のおかげで、大丈夫になった。
 最後の手段は恥ずかしいけど泣き落とし。
 二紀(にき)にはかわいそうだけど、硬式テニス開始は少し先に延ばしてもらう。
 そもそもあの子は部活に青春する人間じゃないから、少々スタートが遅れるくらい許してくれると思うんだ。
 わたしが、あの子のまえで泣くっていうのは、そのくらいの威力があるんだよ、大丈夫。

 初等部6年のお正月。
 毎年リビングの柱に貼られる思い出シール。
 初めて一路(いちろ)シールの上に二紀シールを貼られて。
 わたしは部屋に駆けこんで、こっそり泣いた。
 くやしくて、くやしくて、止まらなかった涙。
 初詣に行くって、わたしを呼びに来た二紀は、泣いているわたしに気づくと「ごめんなさい」って。
 いつもいばって、弟を子分にしていた姉に、あの子は「ごめんなさい」ってうずくまって、わたしの倍は泣いた。
 本当にやさしい子なの。
 だから、つけこませてもらうわ。
 わたしは鬼だからね。
 結城先輩のためなら、鬼にだってなっちゃうからね。

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