「ちょっと散歩してくるねー」

庭で雑草を抜く母の背中に声をかけると、私は懐かしい近所の道を思い出しながらゆっくり歩く。

ここの本屋なくなっちゃたんだ……。

慎吾が毎週月曜日に必ずマンガ雑誌を買っていた馴染みの本屋は閉店してシャッターが閉まっている。小学生がよく遊んでいた空き地には老人ホームができていた。

最後に実家に帰ってきてから3年がたった。懐かしい近所の風景が変わってしまったことに寂しさを覚える。
司さんと結婚する際の挨拶に帰ってきたときはここまで寂しいとは思わなかったのに不思議だ。

あの頃は新生活への希望で満ちていた。けれど今は先の生活への不安でいっぱいだ。

無意識に慎吾の家の方に向かっていることに気付いて苦笑する。
母から慎吾も実家に帰ってきていると聞かされてから落ち着かない。あいつはもう私のことなんて忘れてしまっているかもしれないのに。結婚式の招待状を送っても無視されたくらいだし。

母校でも見に行くかとのんびり足を動かす。春休みに入ろうかという時期だから生徒が少ないだろうけど懐かしい空気を味わいたい。

校門が見えると一人微笑む。目の前の自転車置き場で慎吾の自転車に乗り降りしていた。私が司さんと付き合うまでの間はほぼ毎日。

さて、この後はどうしようか……。

勢いで実家に帰って来たものの、目的があったわけではないので暇を持て余す。

今頃司さんは私よりも少しだけ若い女と楽しい時間を過ごしているのかと思うと胸が苦しい。

司さんと結婚したのは3年前。上京して就職してからも別れずに自然な流れで結婚した。
初めての彼氏が夫となることをもっと慎重になればよかったと思う。