偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「いいよ、お母さん。私と冬哉さんの問題だから。わざわざ叔母さんちに相談したり、冬哉さんになにかを言うのはやめてほしいの。お父さんにも、そう伝えておいて」

「凪紗……」

おじい様の件がなければ私と冬哉さんは問題なく結ばれたのか、冬哉さんは私が彼を想う気持ちと同じくらい好きでいてくれたのか、自信がない。

現時点での〝別れ〟はカモフラージュだが、私には重い事実だった。なにが起きても冬哉さんと結ばれたいと強く思っていた私とは違い、彼は別れという選択のカードをいとも簡単に切れる。

「凪紗、パパも心配してるの。おじいちゃんを止められなくて凪紗を傷つけてしまったって、すごく憔悴してる。凪紗のお仕事も、明日から一週間お休みにするって」

「……失恋したら仕事を休む人なんて見たことないよ。お母さんもお父さんも、私を子ども扱いするのはもうやめて」

「だって……今まで見たことない顔をしてるんだもの……。子ども扱いじゃなくて、お母さん本当に心配なの。すごく痩せちゃってるし、お願い……病院で診てもらいましょうよ」

そばを数口食べて、箸を置いた。
< 62 / 211 >

この作品をシェア

pagetop