政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
どうやら好きみたい
 普通、お互いに意識してしまうようなキスをしたら、もう少し気まずくなるものだと思う。それなのに、秋瀬くんは次の日にはいつも通りに戻っていた。

 私ばかり振り回されているようで気に入らない。だけどこういうところが秋瀬くんという男なのだと納得する自分もいる。

 ぎくしゃくしていたのは私だけで、会社でも家でも秋瀬くんはあのキスをなかったことにした。戸惑いながらもそれに合わせていたら、なんとなくうまく元通りのやり取りをできるようになった。これがいいのかどうかは置いておいて。

 十日も過ぎる頃には、あのキスについて触れる機会もなくなったというわけだ。これも秋瀬くんの作戦のうちかもしれないと思うと、もやっとする。

「秋瀬くん、ドルチェさんのやつを詰めたいんだけど、十四時から空いてる?」

「あ、ミーティング入ってる。そのあとでもいいか?」

「じゃあ十六時で会議室の予約取っておくね」

「俺のしろちゃんは今日も優秀だなー」

 にこーっと愛想のいい笑顔を軽く流し、自分のデスクに戻る。

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