冬よ花弁「序」。彷徨う街で君を探すなら

大師とすれ違う

『Oooon Ooun Ooooon Ouoon』
『 Oooon Ooun Ooooon』

雪の山道を
サクっサクっと
3人で
踏み締めている。

法螺貝の
会話らしき音色が
遠ーく、遠くから
シオンの
鼓膜を振るわしてきて、
昨日聞いた話を
思い出した。

「法螺貝の波動が音霊になって
あらゆる次元を超えるって
やっぱり不思議ですよねっー。」

並ぶシオン達は、
道中、色んな話をしている。
もちろん、令嬢マイケルが
消えた様子も、
それまでの恋愛パワースポット
遍路の事も。

「浄化と共鳴。えぇっと、
オトに乗せて。空間を越えて
SOSも出せる? ですか、、」

シオンを真ん中に、
両側を、マイケルの双子の護衛が
挟んで 歩くと、
道は狭いが
気持ちは 温かくなるようで、

昨日初めて合流した
双子に、シオンはすでに
親近感が湧いている。

「ソレは、遠くまで聞こえるにも
ホドがあります。アルベキ姿に
変えるとか。結界を、 オトで
張ったりするとか ヤマブシの
ワザは 興味深いばかりです。」

まあ、歩き難い事この上ないが、
仕方ないと
シオンは、朝から諦めた。

中国にいる富豪10氏族に与する
令嬢マイケルは、
末席とはいえ、
馬(マー)族と楊(ヨウ)族間の
婚姻で生まれた
ハイブリッドセレブだと
シオンは こうして 歩きながら
双子と話をする
間に初めて知った。

「山伏になりたい人をね、
受け入れる定義がもう 不思議
だよねっ。時間も空間も問わず
って、どーゆーこと?だよっ
って、わっ、わ!!」

ふいに、
雪でよろけたシオンを
双子が両側から
素早く脇をホールド
して、支えてくれた。
それだけでも、
このボディーガードの腕に
問題がないのは分かる。

にしても、
この双子の護衛の目の前で、
警護対象のマイケルが
忽然と消えたのだから
2人がシオンに
過保護まで
ガードをするのは
もう、仕方ない事なのだろう。

「ごめんなさいっ!足元に集中
するねっ。2人共ありがとう!」

双子みたいにシオンは
いかにも遍路装束でもない。
のに、
雪長靴での悪路に、
体力が持っていかれる。

遍路そのものが修行得験。

そう、
昨日の宿坊で出会った
山伏達は シオンに教えてくれた。

修験の山は
霊が天へ昇る場所。

修験者は
死者の遺骨や遺髪を
麓で預かって山中に納めに
入る役目を長く行ってきた
のだと。

だから、
『友人が、遍路の山道で 消えて
しまったのですがっ、何か
思い当たる事っ、ないですか?」

シオンは、
集まる山伏達に、
遠慮を振り捨てて 聞いてみた。

奇跡的現世利益
修行得験、験力、
超能力を得、
験力の発揮。

修験道は、日本古来山岳信仰に
仏教、神道、道教などが
習合して成立。

山の霊力を受けもって
繋いできた者。

行者として呪力を高め、
人びとの現世利益を願う。

験道こそ
真に日本唯一独自の宗教であり。
古代より巡礼を行する。

山伏は、山のスペシャリストだと
シオンの上司、
ギャラリーオーナーのハジメに
電話口で伝えられたのだ。

神道、仏教、修験道が重なり
遍路宗教の世界は確立した。

修験道が遍路道の
ルーツであると。
ならば、
遍路では知らない
『云われ』があるはずだと。

そうして、昨日の夜に
山伏達に聞いてから、

待ち合わせの宿坊で
双子と
合流したシオンは
マイケルが
消えた場所まで
こうして
遍路道を歩いている。

「わたしの自己満足に、
付き合わせちゃった感じで。」

申し訳ないです。

シオンが、双子に言うと

「イエ。我々でわからないシテン
での情報も、もらえました。」

精细。と、クール美男子が
笠ごしに 笑うのが見えた。

マイケルの失踪は、
当然現地の警察に相談した
双子達だが、
はじめ、狂言とされて、
次には事件の容疑者にされる。

結局、来日外国人として
大使館を経て
マイケルの一族に連絡となり
双子の身元が確定された。

このクールガイも、
大変な思いをしてるはずで
つい、シオンは
眉が歪む。


道は
海沿の霊場を巡り行く
くせに突如
山岳霊場へ入るよういざない、
奥深にと
シオン達を 呼ぶよう。

『もしかして、天狗道、それか
龍脊の先に
入ったのかもしれない。』

シオン達の事情を聞いてくれた
山伏の1人が 呟いた単語。
そして、
彼等の持つ法螺貝の話。
色々
聞かせてくれたのを

歩きながら 互いに
確かめ話ながら歩くと、
雪に伸びる影は
どこまでも 3つ。

「私達の国にも ドラゴンバックと
いう、トレッキングスポット
あります。でも、地形意味する
だけ。まさか、地脈、風水な場所
とは知りません。もうこれは
スピリチュアルになります。」

双子のクール美女が、
昨日聞いた話を、思い出して
俯く。

歩く道のりは
四国霊場中の難所。

待ち合わせた 宿坊を
今朝早くに出発して
遍路に入ったが、歩き通しで
足も痛い。

それでも
境内を目指し
急勾配な雪の山道を延々と
歩く。

『山は、決められた道だけを
歩いて、逸れては駄目です。』

十重二十重の山々に
体自体が、かじかむのを、
しっかり立たせて
道を確認しながら進む。

マイケルの失踪は、情報規制が
敷かれメディアにも出ていない。
シオンに連絡が来たのも
奇跡だった。

「最初って、ほんとに恋愛パワー
スポットを ぽんぽんって 観光に
来る感じでっなんですよね?」

それで、
こんな場所にくるとは
シオンには 到底思えない。

西の最高峰、石鎚山の中腹に
ある 目指す寺院は、
かつては女人禁制であった
関所寺。

3カ所の険しい場所を
登り切るのみの遍路道は、

その難路に
旅を断念する参詣者が
あまりに多く
故に
罪残る者は越える事ができない
と昔からいわれる
関所寺だ。

「ハイ。夏の芸術祭で、島ヘンロ
スポットにハマられたお嬢サマが
ヘンロ道で、四国ヘンロの1つに
ハートの神社があると、SNSを
ヘンロガールに見せられてから」

休み毎に、来日してました。
と、クール美女が苦笑する。

はは、そりゃ大変ですねと、
シオンも笑うしかない。

とはいえ、今は
寺の約1.5kmまで林道が
整備されて
小型バスで容易に往復でき 、
一般の車も
林業組合に料金を払うと
通行可能。
30分ほどを
緩やかな道を歩けば到着できる
様に様変わりはしている。

それでも、
マイケルが歩いた様に
シオンも進む為に
朝から8時間の遍路は、

静寂の雪森の参道。
深山幽谷。

そうして、
空気が変わった。

刺すような
寒さを呼吸してようやく、
見える大師堂。

シオンは安心する。

まだここは、
マイケルが消えた場所ではない
けれど、緊張するのは
やはり彼等 山伏達の
話のせいだろう。

『通れない道は、 姿隠しされる』
『行けば神隠しにあう』

そう言われて、
どうしても構えて歩いた。
それも人心地だ。

逆に空気は雪山道から
別の意味で 変化している。

境内は
斜面を切り開いた山岳霊場。
神秘な空気に
そこかしこ満たされているのだ。

「わあっ、これはー、すごく
神静ですねー。ますます、
恋愛って理由じゃっ、
恐れ多い感がするっ。」

シオンは、場の雰囲気に
飲まれそうで
軽口を叩く。

遍路という、
今は一見間口が
広くて、気軽さを装う行が、

真は難行苦行の
修験道に繋がる事に
否応なく気が付かされる
佇まいなのだから。
どうしようもない。


雪厳寒の山岳寺で、
遍路として
接待を受けると、
2度めの人心地をつく。

蔵王権現。

その神は、
日本にしか現れていない。
真にオリジナルな神だ。

しかしその姿は消え、
本尊は今は大日如来。

この寺院を参拝すれば、
古代山岳信仰と密教が
交わる様が
三人の師達の入山や
変遷で自ずと感じれる。

四国、島だからこそ。
原形古代信仰が そのまま
秘して息づいてきたのだろう。

『遍路をすると、おのずと
自然に畏怖する中で
修験の道を歩く事になる。
故に、
遍路道で聞く難病や奇病の
完治という奇跡や現世利益は
修行得験による験力に重なる』

山伏達の声が
シオンの頭浮かんだ。

「さて、シオンさんまだこれから
上に登ります。行きましょ。」

双子に促されて
シオンは、伸ばして暖める
足を、また屈伸させた。


山門を出る
森林の急な坂道を
山中奥深く入って行くこと
さらに0.5km。

そこに昔ながらの
真の石鎚山の遥拝所があるのだ。

弘法大師が
疫病悪星の供養をし
吉星を呼びよせ
甘露の雨を降らせたという
星供養を修した

星ヶ森。

マイケルも、
わざわざこの場所に
上がったらしい。

接待してくれた住職も
遍路や、観光でも
上がらず 次に行く人も
多いと話ていた。

だから、雪では尚更

杉林の遥拝所に
下界の気配は消えていて、

石鎚山側だけが
遥かに木立が開けていた。

その場所には江戸から立つ
赤錆さびた
鉄の小さな鳥居が
さらされて。

鳥居からは
石鎚山の姿を真正面に、
足元から頂上まで仰ぎ見られる。

神の風景。

シオンは、息を飲んだ。
マイケルは
どうだったのだろう?

そこに
シオンが立つと、風が吹いた。

雪なのに息が熱く
肌に滲む汗が 鎮まる。

瞬間、

脳裏に浮かんだ
星空を仰ぐ修行する若き空海 。

星供養をする
命を受ける空海が

心臓から脳に光景が広がる。

天に輝く星に向かい

~※”⌒ ノウボウ アキャシャ
ギャラバヤ オン ~※”⌒
~※”⌒アリキャ マリ ボリ
ソワカ~※”⌒~※”

虚空蔵求聞持法が聞こえた。


意識が戻って、
ハッと振り返る。

双子もボー然としている。
一枚の岩板に3人が
張り付いたように
立つ。

まるで、その岩が
デバイスみたいに
足からデータが
走るような感覚。

ドッと汗が出た。

空海の座像が
苔むした石祠から
こちらを
見つめている。


木立が風にザーーーーー
と吹くと、バサバサーーっと
枝雪が落ちて 津波になる。

ここは

空海の魂が宿る行場だ。

背中に何かを
感じて走しり出したい
衝動を 抑えつつ、
3人で 静かに
降りる。

ヤバいっ!
1人だったら 怖くて逃げ走る
ぐらいだよっ。

何?何?あれ何?

シオンの頭は
動揺とパニックで
ぐるぐるしているのを
何もないフリをして
足をゆっくり動かした。

接待を受けた
寺院に着くと、
人間界に戻ったような
気持ちで
ホッとシオン達は 安堵感を
覚えた。

マイケルは、何を見たの?


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