夏が本格的になってくると、平野君の両親だけでなく、平野君自身ともなかなか会わなくなった。

壁の向こうから聞こえるごくわずかな物音のおかげで、生きていることはかろうじてわかる。


 朝はきっとあたしよりも早く出て、帰りはあたしよりも早いのだろう。

知らない間にいなくなっていて、夜気づいたら物音で存在を確認できる程度だった。


 だから久しぶりに玄関のドアから出てきた平野君を見たときは、外見がまるっきり変わっていて誰だかわからなくなっていた。

平野君の友人かと思った。


「え、平野君?」

「……おはようございます」


 あの満月の夜から2ヵ月経って、関係が知り合いからただの隣人に逆戻りしたようだ。
また無表情になっている。

ぽそぽそとした話し方も声も変わっていない。

なのにミルクティー色の髪は短く刈られてツンツンと鋭利になっている。

日焼けもして、ロングTシャツから伸びる腕はゆとりがなくて、肩と二の腕のあたりが少し窮屈そうだ。

誰だお前。会えない間も温泉のように湧き出ていた母性本能がどんどん干上がっていく。

目の前のこいつに母の愛なんていらねえだろ。余裕で自活できそうじゃん。

むしろ自給自足すらしかねない風貌だった。