金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「ほんとにファミレスでよかったの?」
「うん! ここのハンバーグ、俺の大好物」

 無邪気に言って、彼は980円の定食のハンバーグにかぶりついた。

「もっとちゃんとした店でもよかったのに。こんな地味な顔だけど、お金だけはわりと持ってるし」
「こんな顔って……知ってるよ。森川さん、森川総合病院のお嬢さんなんでしょ。店長が言ってた」
「お嬢さんて年じゃないけど」

 芳乃は苦笑する。芳乃の父親はこの街で一番大きな総合病院の院長をしている。夫である匠は父の部下だ。女に不自由したことのない匠が、なぜ芳乃と結婚したのか……誰の目にも明らかだった。

「森川、下の名前はなんて言うの?」
「芳乃よ」
「へぇ。綺麗な名前だね。俺はね」
「キリト? い、今どきね~」

 芳乃の同級生にそんな名前の男の子はひとりもいなかった。

「キラキラネームでしょ? よく言われる!」

 たしかにきらびやかな名前だが、本人もキラキラしているからちっとも名前負けしていない。

「どんな字を書くの?」

 やたら画数の多い漢字なのか、もしくはカタカナか。失礼かもしれないが、芳乃はジェネレーションギャップにちょっとワクワクしていた。この年代の子と話をすること自体が新鮮なのだ。

「あ、漢字は案外普通なんだ。気象現象の霧に北斗七星の斗」
「へぇ、霧斗か」
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