金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
 彼の前に今夜もハンバーグが運ばれてくる。
 驚くべきことに、霧斗との奇妙な関係は数か月にわたって続いていた。

「いくら好物でも毎週それじゃ嫌にならない?」
「全然! 毎日でもいいくらい。ハンバーグと唐揚げが日替わりならもっと最高!」

 霧斗は飽きもせずに、同じファミレスで同じメニューを頼み続けている。芳乃はあきれたように笑って彼に言う。

「お肉ばかりじゃ栄養がかたよっちゃうよ。野菜と魚も食べないと」
「そんな母親みたいなこと言わないでよ。俺は芳乃さんのーー」
「金曜日の恋人、ね」
「そうそう」

 霧斗はそのフレーズが気に入ったのか、たびたび口にする。だが、自分達の関係は恋人よりはよほど親子に近いと芳乃は思っている。話をして、食事をご馳走する。それだけだ。
 実際に、このファミレスの店員も自分達をやましい関係だとは思っていないようだ。その証拠に毎回にこやかに出迎えてくれる。きっと叔母と甥かなにかだと思っているのだろう。

「もしかして、親子だと思われてたりして……」
「それはないって。年の差カップルも不倫カップルもいくらでも来るだろうし、店員さんも慣れちゃって、いちいち気にしないんだよ」
「そうなの?」

 ひと回り以上も離れたカップルや不倫は世の中にそんなにありふれたものなのだろうか。

「ありふれてるよ。俺の女友達、みんなふつーにパパ活してるしね」
「パパ活ね……」
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