金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
 また金曜日が来てしまった。死にたくなるほど憂鬱な一日。

「マリさん。そのバッグ、新作よね? 素敵〜」
「ふふふ。先月の結婚記念日にねだっちゃった」
「いいわねぇ。私も色違いで買っていい?」
「もちろん! いっそのことみんなでお揃いにしない?」

 マリが自慢気に手にしているワインレッドのバッグは某ブランドの新作だ。詳しくは知らないが、三十万くらいはするものだろう。
 今ここに集まっているのは、その額のバッグをポンと気軽に買える者ばかり。芳乃の暮らすタワマンの奥様会だ。週に一度は集まって、こうしてランチをするのがお決まりだった。
 特に楽しいとも思わないが、抜ける理由もないので芳乃もなんとなく参加し続けている。子供のいない専業主婦には、こういった暇つぶしも必要なのだ。

「芳乃さんも一緒にどう? ほら、芳乃さんのバッグいつも同じじゃない? それも素敵だけど、たまには新調したら?」

 自分に話が及ぶとは思っていなかった芳乃は戸惑った。この会はマリを中心とした二〜三人がお喋りし、残りのメンバーはただ聞き役に徹しているだけだったから。

「ううん、私は……。このバッグ、まだ十分使えるし」

 芳乃は二十歳のときに母にもらったバッグをずっと使い続けている。新しいものが欲しいとも思わないし、その必要性も感じなかった。

(だって、オシャレして出かける用なんてない。ただ家のことだけしていればいいんだもの)


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