契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました

お前には俺がいる


 来月から勤めることになった、会社の社長と結婚します──。
 
 実家の母にそうメールを打ったのは、偽装結婚をすることになった日の翌週の月曜日。今週末にいきなり大吾さんを連れていくのはどうかと思い、連絡だけとメールしたのだけど。

 もちろん、そんなメールだけで納得してくれると思っていたわけじゃない。心構えをしておいてほしいとちょっとした心遣いのつもりが、まさか直後に連絡が来てその日のうちに「会いにそっちへ行く」と言われるとは想定外。

 しかも平日だというのに父も一緒だと言うから、これは一筋縄ではいかないだろうとひとり臨戦態勢に入ったのは言うまでもない。

 週末に大吾さんと実家訪問の予定が、大幅に狂ってしまった。
 
 でも、どうしよう。アパートは二日前に出払ってしまいもぬけの殻。今更戻ることはできないし、そうかといって大吾さんと暮らすマンションに呼ぶのは今の段階では無理。

 父は役所勤めをしていて、まじめを絵にかいたような人。物事はなんでも順序通りに──が口癖のような人だから、一緒に暮らしているなんて知ったらどうなることか。想像しただけでも恐ろしい。

 困り果てた私は、仕事中で忙しいのはわかっていたけれど大吾さんに連絡。

 するとすぐに電話がかかってきて『知り合いのホテルに部屋を取ったから、そこに来てもらうといい』とすぐに解決し、大吾さんの機転で事なきを得たと感謝しつつ母に連絡を入れ、私も急いで支度をするとホテルへと向かった。



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