余命38日、きみに明日をあげる。

延命の方法

風呂を出て、二階へあがろうとしたところで、仕事から帰ってきた父さんと玄関の前でばったり会った。
 
おかえり……喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

そのままくるりと体の向きを変え、俺は階段を上って行った。背中に、父さんの視線を感じながら。
 
父さんと口を利かなくなったのは、中学2年生のころ。
 
俺がパティシエになると疑っていなかった父さんに、「医者になりたい」と告げてからだ。
 
俺が医者になりたい理由なんか、すぐに見抜かれた。
 
もちろん、長年病気と闘う莉緒をそばで見ていた父さんは、俺の真剣な気持ちを分かったうえで、それでもパティシエになってほしいと言った。
 
お互いの気持ちは一方通行で。

顔を合わせれば、ケンカばかり。

話し合いにもならず、やがて、父さんはあきらめたかのように何も言ってこなくなった。会話そのものがなくなってしまったんだ。
< 30 / 288 >

この作品をシェア

pagetop