ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です

これらの作業を一人でするには無理があり、事務所にはもう一人、小倉さんという30代半ばのパートの女性がいる。

「篠原さん、今日はデートなの?」

「相手いないの知ってるじゃないですか」

2人しかいない事務所内の為、たまに小休息としてコーヒーを飲みながら、私用の会話をすることがある。

「いつもと違ってメイクをちゃんとしてるし、髪も下ろしているから、お出かけなのは間違いないわよね」

普段、事務所外に出ることが滅多にない私は、手抜きメイクに肩まである髪を後ろで一つに縛っているので、誰が見ても違いは丸わかりだろう。

あえて小休息を取ろうと言ってきたのは、普段と違う私が何も言わないので、痺れを切らしての、このタイミングだったのだろう。

彼女は以前、大きな病院の事務員として働いていた経験があり仕事はとても早い。こちらで勤める前に離婚され、独り身の彼女は、私と違いオシャレに気をつかう素敵な女性だ。だが、噂話が大好きで、彼女に話をすると出水支店の全従業員に知られてしまう。

だから、プライベートは話さないようにしていたのに、確信を持って目をキラキラしている。

「まぁ」

「なに、その気のない返事。篠原さん、可愛い顔してるのに彼氏いないからみんなで心配してるのよ」
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