マリアさんはアトス様がその場を去るまで、小さく縮んで頭を下げっぱなしだった。去ったあともひどく落ち込んでいて、地面にめり込むんじゃないかと思ったほどだ。

 ところが、何分かするとそれが私の怒りへと変化したらしい。きっと目を吊り上げて私に詰め寄った。

「ちょっとアイラ! 何アトス様に色目使ってんの! 私のことを悪く言ったんでしょ!?」

「い、いえ、決してそんなことは……!」

「この泥棒猫! だから若い子は嫌なのよ!」

 どうしてそんな解釈になるわけ!? 

 ここで私はようやく気付いて青ざめた。マリアさんが私に辛く当たるようになったのは、前も働いているときにたまたまアトス様と話して、それを見られてしまってからだった……!!

 マリアさんも私なんかに嫉妬しても無駄なのに。あれはアトス様のほんの気まぐれにすぎない。

 夢を見たい気持ちはわからないでもないけど、宮廷魔術師とメイドじゃ天と地ほどの身分差があるし、見初められるなんて九十九.九パーセントありえないと思う。

 それ以前に、公式に発表されたわけじゃないけど、アトス様は第二王女のマリカ様と、いずれ結婚するんじゃないかと言われている。

 これは宮廷魔術師には時々ある話だった。貴重な人材を留めおくために王家が取り持つのだ。王女様VSメイドでどちらか勝つかなんて決まり切っている。

 でも、そう説明しても納得なんてできないんだろうな……。熱狂的なファンってきっとこんなものなのよね。

 ガミガミと感情的に怒られながら、私は明日も残業になるなとトホホとなった。