ああ、猫になって誰かによしよしって、いい子だね、頑張ったねって可愛がられたいな。膝の上でのんびり眠って、ご飯をたっぷりもらって。

 ううん、そんな非現実的で、馬鹿なことを考えても仕方がないか。ここは魔力のある不思議な世界だけど、魔術師でも変身できるなんて聞いたこともない。

 あと三日で週末がやってきて、二週間ぶりに実家に帰れる。街でお土産を買って行こう。それを楽しみに頑張ろう……。

――それからどれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 私はふと違和感を覚えて瞼を開けた。

「……?」

 被っていたはずのナイトキャップがない。大切なものなのにと慌てて起き上がる。ベッドの下に落としたのだろうか。

 私はとんと地面に降り立った。

 ナイトキャップはやっぱり床に落ちていた。胸を撫で下ろして手に取ろうとして青ざめる。

 ……わ、私、手がなくない!? というか、四つ足で立っていない!?

 目に入る手……ではなく前足は、明らかに人間のものではない。真っ黒の体に白い靴下を履いたような、そう、猫のような前足だった。

「にゃ、にゃ、にゃ……」

 な、な、な、と言っているつもりなのに、口から出るのはまさしく猫の鳴き声だ。

 私はしばし呆然としたあとで、そうか、これは夢だと心の中で手を打った。

 疲れたせいで願望が夢に出たんだわ。そうか、夢なら何をやっても叱られないよね! せっかく猫になれたんだから、普段王宮で行けないところに行ってみよう!

 私は窓辺にひょいと飛び乗ると、格子の隙間に頭をねじ込んだ。ちょっと無理かなと思っていたけど、なんと体が面白いくらい柔らかくて、あっさりと通り抜けることができた。