ところが、その猫耳は驚愕に手が震え、桶が揺れている間に消えていた。

 落ち着いた水面にはいつも通りの私の姿があった。当然猫耳なんてあるはずがない。

「は、ははは……。そうだよね。いくらなんでも猫耳なんてあるはずがないよね」

 きっとよっぽど疲れているか寝ぼけていたんだろう。それとも昨日の夢を引きずっているんだろうか。

 私は桶をうんしょと洗面台に持って行くと、冷たい水で思い切り顔を叩いた。

 ボケっとしている暇があれば気合を入れる!! どうせマリアさんにまたこき使われ、嫌味を言われるだろうしね、トホホ……。

――と、覚悟して担当の場所の聖堂に向かい、一時間ほど真面目に掃除をしていたものの、マリアさんとはまだ顔を合わせていない。

 いつもはこのくらいの時間に見回りに来て、ネチネチと日本のドラマの姑のように、あそこが汚れている、ここに埃がある、躾がなってないとお説教されるんだけど……。

 代わってやって来たのは三年先輩のエルマさんだった。

 この人は二十歳だけどもう結婚していてお子さんもいて、アトス様ってクールで素敵!だの、王太子殿下ってワイルド系よね!だのと騒いだりしないし、誰かをいじめることもない。

 私はステンドグラスを吹く手を止め、エルマさんに駆け寄って挨拶をした。

「エルマさん、おはようございます。マリアさんはどうしたんですか?」

「それがね、今日は欠勤なのよ」

「えっ!?」

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