私は大学卒業後、何度かの転職を経たのちに、広告代理店の下請けの制作会社に入社した。

 これがブラック中のブラック企業でサビ残、休日出勤は当たり前。そのくせ給料が高いわけでもなく、私はスーパーでお買い得品以外は買ったことがなかった。

 まともな精神状態ならとっくに辞めていただろう。だけど、積もり積もった疲労が体だけではなく頭も侵し、正常な判断ができなくなっていたのだ。

 父は学生時代に、母は数年前に亡くなっていて、実家を継いだ兄とは疎遠で、心配してくれる人がいなかったのもいけなかったのだろう。はっと気付いた時にはとっくに三十路を過ぎていて、結婚の予定どころか彼氏もいない社畜になっていた。

「私、今まで何してきたんだろう……」

 ひたすら働いて年だけ取ってなんの実りもない。それでも、明日出勤しないという選択肢は思い浮かばなかった。

「……寝よ」

 テレビを消すと、カップラーメンの空と割り箸はそのままに、敷きっぱなしの布団に入って電気を消す。

 まさか、それが最後の晩餐になるとは予想していなかった。

 翌朝、過労による立ち眩みで、駅のホームから線路に転げ落ち、直後に滑り込んだ電車に轢かれ、呆気なく死んでしまうなんて思わなかった。

 目の前に迫る車体を前に私が思ったのは、「来世は斉藤さんちのマロンちゃんになれますように」だった――