呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

第2話



 身体の隅々まで清められた後、修道女であることを示す紺色の祭服を身に纏ったシンシアは瓶底眼鏡を掛け、ぐったりしながら中央教会の聖堂内へ足を踏み入れた。
 複雑なアーチが印象的な高い白天井。その先には壁の積み石を極限まで減らしたランセット窓があり、色とりどりのガラスがはめ込まれている。太陽の光に照らされ鮮やかな色を満たした空間は、神々しい雰囲気を生み出していた。

 アルボス教会は精霊女王を信仰している。
 かつてこの大陸は精霊女王と精霊たちによって治められていた。だが、闇の力を持つ魔王の台頭によって戦争が勃発し、精霊のほとんどが精霊しか渡ることのできないと言われている常若(とこわか)の国へと逃げていった。
 精霊女王は魔王を討つため四人の貴人に力を分け与えた。これにより数百年にも及んでいた戦争は終結し、魔王を倒した彼らは英雄として人々に迎えられ、その血は絶えることなく現在も受け継がれている。
 大陸が泰平の世となったことを見届けた精霊女王は、精霊と同じように常若の国へと渡ってしまった。今から五百年前の話である。だが、精霊女王が平和のために広めた精霊信仰は今尚人々の間に根付いている。


 シンシアは聖堂奥にある精霊女王の石像を見上げていた。右手には杖を、左手には聖書を持ち、慈愛に満ちた優しげな微笑みを浮かべている。この像を見ると全てが許されたような気分になるのはこの厳かな空間のせいだろうか。

< 10 / 219 >

この作品をシェア

pagetop