呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

第4話



 自分の気持ちを知ってからというもの、シンシアは率先して外の仕事をこなした。
 うっかりイザークと鉢合わせしないための対策だ。そして今のシンシアは自分の気持ちを整理する余裕がない。イザークを意識してしまえばたちまち顔に熱が集中してしまう有様で、好きという感情を胸の奥にしまい込むことで精一杯だった。

 それにこんな感情を抱いたまま妃候補であるフレイアの仮宮に足を踏み入れるのは失礼だ。

(掃除係の侍女で良かった。こうやって外の仕事もできるから)
 シンシアは小道の落ち葉を拾いながら歩いて回った。

 空は快晴で爽やかな風が庭園の植物たちを撫でていく。花の上では蝶が舞い、蜜蜂が忙しなく蜜集めに励んでいる。泉の方からは鳥たちの囀りが聞こえ、後宮内だというのにのどかな雰囲気に包まれる。
 腰を曲げてせっせと落ち葉を拾っていると、急に視界に影が飛び込んできた。

「やっと見つけましたわ!」
 顔を上げた途端、思わず頬を引きつらせた。こちらを見下ろしているのは最も会いたくない人物の一人、フレイアだった。

 シンシアは上体を起こすと慇懃な礼をしてその場を離れようとする。女官と違い掃除係の侍女は本来、挨拶以外で令嬢と話すことはない。しかし、フレイアは回り込むようにしてシンシアの行く手を阻んだ。

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