呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 無意識のうちに怯えていると、突然身体がふわりと浮いた。
 目線が高くなり、イザークの頭よりも空高くに掲げられている。驚いて下を見ると、シンシアは堪らず息を呑んだ。

 何故なら、目つきだけで人を殺せるくらい極悪非道な顔つきのイザークが、これまで見たこともない蕩けるような笑みを浮かべていたからだ。


「嗚呼、俺はどうして猫に触れるんだ!? はっ、まさか夢なのか? 俺は猫アレルギーで猫に触れたくても触れられないんだぞ!?」

 眉間に皺を寄せる彼は、気に入らないことがあればすぐにでも相手を処刑するような印象だったのに、今は鼻息荒く目を細めて興奮している。
 戴冠式での第一印象とあまりにかけ離れているため、シンシアは面食らった。

「はあ、猫に触れられる日が来るなんて。――幸せだ!」

 とにもかくにも、処刑は回避できたようでシンシアはほっとする。
(猫アレルギーが出ないのは私がもともと人間だからなんだけど……良かったですね)


 爛々と目を輝かせるイザークは尚も語りかける。

「ということはつまりだ、本当に猫の肉球がぷにっとしているのか確認ができる」
(ええ、ええ。良かったですね。私もそれくらいで頭と胴体が繋がるのであれば肉球を差し出します。存分にぷにってください)
「そしてもふもふもできる」
(ええ、ええ。いくらでも触ってくださって結構ですよ)
「そして悲願の猫吸いができるというわけだ!」
(ええ、ええ。いくらでも猫吸いをしてくだ……はいぃっ?)

 頼むからそれだけは勘弁して欲しい。
 恍惚としていても空恐ろしい顔面凶器が間近に来るなど、失神ものである。

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