呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 後方には年季の入った艶やかなローズウッドの机があり、書類や書簡が置かれている。壁にはアルボス帝国を象徴する翼の生えた獅子と月桂樹のタペストリーがあり、その両サイドには幾つもの分厚い本が収まった本棚がある。

(もしかして、ここってイザーク様の個人的な部屋? どうりで侍女が逃げ帰るわけね。国家機密の書類もあるだろうし、一歩間違えれば雷帝の不興を買って首を刎ねられるかもしれないもの)


 そんな恐ろしい場所に残されたシンシアは生贄にされた気分になった。

 すると、いつの間にか横に座っているイザークにひょいっと抱き上げられた。膝の上に乗せられて、背中を撫でられるが疲れ切っているので抵抗する気力もない。

「今日からここがおまえの部屋だ。この部屋は俺の寝室と繋がっていて、持ち帰りの仕事をする場所として使っていた」

 必要なものは全て揃えたから好きに使うといい、と言われ辺りをきょろきょろと見回してみると様々な家具が置かれていた。

 それはただの家具ではない。
 どれも高級木材で造られ、精巧な彫刻が施された逸品だった。金や銀、宝石の装飾も施され、豪華絢爛さに目が眩みそうになる。


 中央教会は信者たちの寄付によって成り立っている。聖職者たちは質素倹約を美徳として暮らしているため、目の前に広がる贅の限りを尽くした調度品の数々にシンシアは圧倒されてしまった。

< 30 / 219 >

この作品をシェア

pagetop