呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

第3話



 怪しんでいない様子にシンシアは内心小さく息を吐く。

 ロッテは手に提げていた美しい彫刻の木箱を開けた。中にはブラシと色とりどりの首飾り用のリボンが並んでいる。
 小鳥が木箱の縁に降り立つと、嘴を使って色の提案をしてくれる。

 彼女は小鳥が選んだエメラルドグリーン色のリボンを取り出した。
 次にブラシを手に取って、優しくシンシアの毛並みを整え始める。


「ユフェ様は聡明でとっても美しい猫ですね。私の実家はあの魔王を倒した魔法使いの末裔であるランドゴル家。でも魔王を倒したお祖父様の血はどんどん薄くなってしまったから、家の者は動物を操ることはできません。その力が使えるのはもう私くらいです」
『そうだったの。でもロッテと話せて良かったわ。ここじゃ誰とも話なんてできないだろうから……』


 ふと、シンシアは仕事をしているイザークを一瞥した。
 どうして彼がロッテを自分付きの侍女にしたのか合点がいく。

 宮殿内は猫アレルギーの彼のためにシンシア以外の猫はいない。イザークはユフェが寂しくないよう話し相手を作るため、ロッテを世話役にしてくれたようだ。

(おかげで意思疎通できる相手ができて良かった。でも、ランドゴル伯爵家なんて結構すごい家柄なのに……なんでロッテは侍女なんてやってるの?)


 ランドゴル伯爵家は国内の名門貴族の一つだ。
 教会育ちで貴族社会に疎いシンシアでさえもその名前は度々耳にしていた。

 それにベドウィル伯爵家出身のルーカスから名門貴族くらいは覚えておいた方がいいと言われた。最近教えてもらったばかりなのでその辺の事情も知っている。

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