期間限定恋人ごっこ【完】番外編
Day3
エントランスに行くとやっぱり今日も待っていた彼はやっぱり朝から爽やかで。
「おはよ」と私とは反対で明るい声で挨拶してきた。
朝が弱い私はもちろん声のトーンも低くて機嫌が悪いかのように聞こえる。
「行こうぜ」
差し出された手を握り返したとき後ろから「あら」と聞き慣れた声がして最悪だ…と思いながらゆっくり振り返った。
『何?』
用があるのかと訊き返したのに、お母さんから返ってきたのは「カッコいいね~」と誠人に対しての褒め言葉だった。
誠人は誠人でその言葉を素直に受け取り「ありがとうございます。初めまして俺は…」と自己紹介をし始めた。
その光景に私は溜め息とともに頭を抱える。
『ねぇ、時間は大丈夫なの?』
と問いかけると腕時計を見てマズイ!という顔をすると「またね!」と言って去っていった。
「沙夜先輩の母親綺麗だな」
『そう?』
「沙夜先輩の方が綺麗だけどな」
サラッとクサイ台詞を言った男の言葉に、こっちが恥ずかしくなる。
言った本人はとても臭い台詞を言った後ではないような涼しい顔をしている。
照れた顔を隠すように手で覆うと「照れてんのか?」と問う彼は根っからの意地悪だ。
私がこんなにかき乱されるなんて、しかも年下の男の子なんかに。
『~ッ…行くよ!』
離していた手を無理矢理取るとズンズンと前を歩く私、そんな私を誠人はクスッと笑った。
誠人の先を歩いていた私なのに、気づいたら誠人は隣を歩いていてやっぱり足の長さが違うわ…と足の長さを思い知らされた。
あっという間に学校に着くと玄関で別れてそれぞれの教室へと向かう。
いつもと変わらない廊下、いつもと変わらない視線、いつもと変わらないヒソヒソ話___のはずなんだけど今日はいつもより見られているし、ヒソヒソ話がとてもよくないものに聞こえるのは私の気のせいだろうか?
だけど、それは気のせいではなかった。
『…何これ』
教室に入ると視界に入ったのは黒板にデカデカと書かれた文字。
汚い言葉の数々に北条誠人と別れろ…など大胆かつ幼稚なイジメ。
机の上には一輪の花がご丁寧にも花瓶に生けられ置かれていた。