王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。

3『乙女、参戦』

3『乙女、参戦』

「音楽室なんて…入れるの?」
 足立はひと気のない廊下でもう、おどおどしはじめた。
 車が走っていなくても、赤信号では横断歩道すら渡れない生真面目ちゃんなんだろう。
 かわいいとは思うけど、取り扱い注意人物確定だ。
「入れるよ。試験中だから誰もいねぇだろし。立ち話はいやだろ?」
 とりあえず、軽いノリで誘導。
 こそこそするならもう、見られたらヤバイのは男のほう。
 徹底的にこそこそせねば。
「足立は専門、なに取ってるの?」
「書道……」
「そか。じゃあ、こんなとこ、来ないもんな」
 芸術は3年間通しての専門科目なので、音楽を取っていない人間には馴染みがない場所が、どれほど金をかけて作られているか驚けよ。


「あ、加藤さん」
 町田がいたのは想定外。
「…あ」
 両手で口をおおう足立は、まあ想定内。
「いやいや。木村はまともな男だから、心配すんな」
 自分も驚いたので、ぽろっとおれの口から出た言葉の威力は200%想定外。
 足立は目を見開いて、おれと町田を交互に見ると真っ赤になった。
「じゃ、かかか彼が加藤くんのカレシ?」
 ちがーう。
 違うよ、足立。
「うわ、どうしよ。おれ、じゃまですね」
 おまえも違う。
(わり)ぃ。説明めんどうだから、とりあえず座ってくれ、ふたりとも」
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