王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。

4『おれの声を聞けよ』

4『おれの声を聞けよ』

 廊下の壁にもたれて待つこと数十秒。
 駅からバスで来る軟弱なやつらの登校時間は、ハイスペックな日本の交通制御体制のおかげで毎日さして違わない。
 頬を染めて3歩後ろを歩く足立を引き連れて、たぶんそんな足立には気づいてもいないドン・キムラホーテも定時に廊下に現れた。
 足立の援護射撃のおかげで、今日は来ると信じていたから、昨日は引いた。

 おれは見える。
 見えるようになった。
 町田のおかげで他人を観察するってことに覚醒したから。

「うす」
 第1ラウンド、先攻はおれ。
 木村は鼻で笑うとふらりと自分の席に歩いていった。
 続く足立が扉の前で立ち止まっておれを目で呼んでいる。
「あのね、もう浩ちゃん、大丈夫みたい。フツーに朝、ゴミ捨て当番やってたし。電車乗ってきたし。バスも混んでたけど平気そうだった」
「…………」
 それがもう魂が抜けている証拠なんだが、衛生兵は元気なまま待機させておく必要があるので、成り行きとはいえ参戦してきたナース足立を不安にはさせられない。
「今日で最後だから。加藤くんも、がんばってね」
「おう」
 なにをどう、がんばればいいのかなあ。
 最前線の兵隊がわからないまま開戦だよ、足立。
 すまん。


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