皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

例え声を上げても、この広い部屋では室内で消えてしまうだろうし。何より4階の北側は人の出入りが少ない。


いっそ、起こしたほうがいいかな?


そろり⋯⋯と視線を真下に移す。

至近距離からみても、絵画の1枚から出てきたような完璧な出で立ち。いつも憎まれ口を叩く薄情そうな唇は少しだけ開いていて、とても無防備だ。


――『アイリスをこの帝国のお姫様にしてやる』


ふと、幼いルイナードの決意が頭を蘇ってしまった。


最悪だ。なぜ、こんな昔の記憶を思い出してしまうのだろう。やっぱり、精神の衛生上、起こしたほうがよさそうだ。


そう決意して、厚みのある肩に、そっと手を置いたとき。


「あ⋯⋯」


肩を揺らす前に気づいてしまった。

彼の目元にくっきりと刻みこまれたクマ。肌も唇も少しだけ荒れていて、顔色はあまり良くないようにも見える。


⋯そうだ。そういえば、サリーがここ最近のルイナードは、寝る暇もないほど忙しいと、とても気にかけていた。

サリーだけではない。本当のことを言えば私だって、部屋の向かいに見える執務室のランプが灯っていることも。隣にある彼の私室から遅くまで物音がすることも。ちゃんとわかっていた。

夕食のときには一切疲れを見せないが。こうして眠り落ちてしまうほどに、彼は忙しい。

何よりルイナードは本来、身体が強い人間ではない⋯⋯。
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