皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


「ほら、はやくしろ」


三十分程して馬車は皇城へと到着した。

抱えられるように降ろされた私は、執拗な監視のもと城内のひんやりした廊下を歩かされる。

薄い白の寝間着と、拘束時に持ち合わせた毛布をかぶされただけのなんとも心もとない姿。身体は寒さを感じないけれど、身籠っている身体を思えばこの緊迫した状況は気が気でなかった。

そして背中に突き刺さるような鋭い眼光。もちろん逃げたところで、首根っこをひっ捕まえられるのは確実だ。


「呼ばれるまで、ここで待ってろ」


廊下の最奥の扉の前にやってくると、ドアを開き乱暴な態度でそのまま中へと押し込まれる。

その勢いに思わずつんのめり、とうとう私の怒りは爆発した。


「ちょっと⋯⋯! あなた、もっと優しく―――!」

「そこまでは任務に入ってねぇ」


ピシャリと返された途端、バタン!と扉は鋭く閉められる。閉まる直前、嘲笑いのようなものが視界に入り、カッと頭に血がのぼる。


くっそぉ――! なんなのあいつ⋯⋯! こっちは無理矢理連れてこられたのに! 


仕方なく、怒りをフーフー荒い鼻息で逃がし部屋の奥へと足をすすめることにする。


そこには重圧な家具と調度品の揃えられた、さほど広くない待合室のような空間が広がる。

庭園に面した大窓に、わきに配置される重々しいテーブルとソファー。そのうえには部屋とは似つかない可愛らしいお菓子が並べられていた。さらに季節はずれの暖炉には、ぼんやり火が灯っている。

どおりで毛布が無くとも温かいわけだ。

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