皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


「⋯⋯婚約は破棄したはずよ。あなたがお父さまを殺した日に。私が城を出たことで⋯⋯。全てが終わってるわ」

「⋯⋯俺は城を出ていけとも、破棄するとも言っていないがな」

「――――」


変わっていない。温度のない淡々とした口調とそれに見合った氷のような美貌。そして標準装備は自分勝手な物言い。

舞踏会で出会った彼とは百八十度違うのがルイナードという男だ。

しかし、今はこんなことを話してる場合ではない。


「⋯⋯私を騙して、楽しかった?」


本題を提示すると、彼は心外そうに自らの顎先に触れて首をかしげる。


「騙した⋯⋯その言い方はおかしい。仮面舞踏会の掟はお前も知っているはずだ。どうやって俺であることを伝られる?」

「目の色まで変えていたくせに、よく言うわ」


ここで掟を持ち出してくるとは、嫌らしい男。

舞踏会の夜――『“掟”⋯⋯破るんですか?』――庭園で素性探りを咎めたことにようやく合点がいく。

彼の持つ“黄金の瞳”は、皇帝一族であるグランティエ家のみに代々受け継がれるとされる、異色のもの。

彼が隠してさえいなければ、私は彼とダンスをすることも⋯⋯いえ、会場内に留まることさえ、絶対になかった。

あの日の、あの甘い口説き文句に全て騙されたと思うと、心がえぐられる思いだ。

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