皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

『――レイニー! アイリスさま!』


クロードさんまで、追ってきていたなんて。

彼は、はぁ、はぁ、と大きく息を切らしながら、私たちの横でぴたりと止まる。


『⋯⋯アイリスさま、落ち着いて下さい。あなたは、ひとりではありません。レイニーがいるではありませんか』


クロードさんが、優しく私の身体を抱き起こして真摯に言い聞かせる。


『城を出ていくのであれば、宿舎にいらして下さい。今後のことは私がなんとかいたします⋯⋯なので、落ち着いて⋯⋯』


温かい腕に慟哭が止まらない。でも、これは私が求めている温かさではない。そんなことを思う私は最低だ。

歯を食いしばって泣いていると、兄さんも顔を見せてくれた。


『そうだ。アイリス⋯⋯辛いのは俺も一緒だ。でも、俺たちはひとりじゃない。兄妹だろ』


わかってる。わかってるんだけど。心の中にできた、深海の闇に、今にも飲み込まれてしまいそうだ。


兄さん、助けてよ。苦しいよ。消えてしまいたい。


ふたりにすがりついて、わんわん泣いた。



『――お気持ちを強くお持ち下さい、アイリスさま。あなたが笑顔であることが、何よりの⋯⋯希望です』


希望⋯⋯? それはなににとっての?

私にとっての? それとも⋯⋯お父さまにとっての⋯⋯?


『大丈夫です⋯⋯。ゆっくりおやすみ下さい。きっと――もそれを望んでいるはずです――』


緊張の和らいだ私は、そのまますぅ⋯⋯と意識を手放してしまった。


それからクロードさんの用意してくれた、宿舎の敷地内にある小さな民家で、兄さんとの共同生活がはじまった。

私がひとりぼっちにならなかったのは、クロードさんのおかげだ――。



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