偏にきみと白い春

【2】




「……おはよう」


 毎朝同じようにリビングのテーブルに用意された食パンと牛乳を見ながら、毎朝同じトーンの「おはよう」に、お母さんは目線だけで返事をする。その、冷たい視線がいつも痛い。

 残すと冷たい視線をおくられるから、食欲がない日でも必ず全部食べなければいけない。本当は、朝にパンは喉元に突っかかって好きじゃない。そんなこと、絶対に言わないけれど。

 今日は珍しくお父さんもいるから、よけい空気が重たく感じるんだろう。何も言わないで新聞を読んでいるだけのお父さんの存在感は計り知れない。

 めったにつけないテレビから漏れる音が、やけに大きく聞こえるのは、この空間がとっても静まり返っているからだ。食事中、家族で会話を交わすというごく当たり前のことでさえ、うちには存在しない事。

 できるだけ急いで朝ご飯を飲み込んだ。食器を自分で片付けてから、沈黙の中リビングを出る。私の背中にかかる言葉はないけれど、毎日玄関で静かにそっと「いってきます」と呟くのは私の中の意味のないルールだ。


 そして今日も、つまらない一日が始まる。

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