偏にきみと白い春

【1】



 ザワザワと騒つくテスト返しの教室内。教卓の目の前、つまりクラスメイトたちの真ん前に、世界史担当兼このクラスの担任である坂口先生が私を呼んだ。


「よし。片桐、今回も素晴らしいな。先生は鼻が高いぞ」


少し小太りの坂口先生は、まるで自分がエライみたいに鼻高々に成績表を差し出した。ニコリと笑ってそれを受け取ると、背筋を伸ばして先生に背を向ける。表情は決して崩さない。

 自分の席に着いた瞬間、机の下で渡された紙切れを開いてにサッと目を通す。

手の中にあるその紙切れには、数学から古典まで、文理関係なくすべての教科の下に『 1 』という数字が並んでいた。


———すべて1位だ。


もちろん、クラス順位も、学年順位も。

 その結果にほっと胸をなでおろすと同時に、緊張感が抜けたからか周りの声が妙にハッキリ聞こえ始める。


「すっげぇー」
「また1位? 頭どうなってんの」
「天才は違うよなあ」


 そんなクラスメイトの声が耳に入った途端、私の胸はドキリと音をたてる。まだ教壇の上で偉そうに笑っている担任も、わざわざみんなの前で言う必要なんてないのに、と思う。

 結果を見てしまった成績表はもう必要ない。机の下でそれをクシャッと丸めてから、私はまた背筋を目一杯伸ばした。


 まだだ。
まだ、全然すごくなんかない。


 だって、完璧じゃないから。

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