偏にきみと白い春

【5】




「ふう…」


下駄箱で思いっきり深い息を吐く。でもこれは、悪い意味のため息じゃないと思う。

普段の私じゃ絶対に体験できないようなことに色々出くわして、疲れたなあとは思うけど。私にはそれすら新鮮で、自分が吐いたため息を嬉しく思っていることに自分でビックリしてしまう。


 領と他の2人は、これからまだ曲作りと曲合わせをするんだって。『はるとうたたね』は、人数が少ないこともあって部活動として正式には登録していないものの、軽音楽同好会としてあの教室を使う許可はきちんと取ってあるらしい。

 領たちの顔が広いっていうのもあると思うけれど、うちの校風は案外自由だ。赤川さんのあの奇抜な髪型でも学校に通っているのはさすがに驚いたけれど。

 そして私は、とりあえず今日は帰宅。課題はメンバーの名前を覚えてくること!って領は笑ってた。でも、明日から特訓……らしい。それもそうだ。だって私は、音楽に関してはすべて初心者なんだから。



「今日は疲れた?」



 下駄箱で立ち尽くしていたからか、突然後ろから声をかけられてびっくりした。考え事をしていたせいで後ろから人がやってくるのに気づかなかったらしい。

恐る恐る顔を上げると、そこにはさっきまで音楽準備室にいたはずのコウヘイくんが立っていた。


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