偏にきみと白い春

【6】




「よっしゃー! 今日もやるぞー!」


 昨日みたいに、小さな音楽準備室の中。領が他の2人が好きなことをやっているのを見てそう叫んだ。楽しそうだなあとその姿を見つめるわたし。


「毎日うっせーなー領は」
「ホント」


 そう言っって他の2人も笑っている。狭い教室の片隅におかれた電子ドラムに座るのはコウヘイ。ヘッドホンをつけた瞬間、コウヘイの顔はいつも変わる。ドラムスティックでリズムを取り出すのは、完全に自分の世界に入ってしまった合図だ。

 一方怜さんは電子メトロノームの目の前でベースを弾いている。ピッキングって言うんだって、領が耳打ちして教えてくれた。


「んじゃー、始めますかっ!」

「は、はい」


 ぐって背筋を伸ばして、いつもみたいに笑う領の顔を見つめる。今日はボーカルについて色々教えてもらったりする予定だったんだけれど……領がガサゴソと自分のリュックをさばくっている。


「あー、あったあった。ハイこれー」


そういって、小さな携帯型音楽プレイヤーを手渡された。それにキョトンとするわたし。


「とりあえず、綾乃の歌唱力を一回ちゃんと確認したいから……このプレイヤーに入ってる曲でなんか歌えるのある? ここに入ってるのなら俺ギターで伴奏できるからさ」


 領に手渡されたプレイヤーには、流行りのJ-POPから洋楽、知らないロックバンドまで様々なものが何百曲も入っていた。

 領って、音楽が本当に好きなんだなあって思う。そして、これならギター弾けるから、ってすごいな。私にはよくわからないけど、きっとすごいんだろう。

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